「巨樹」をテーマに、新宿御苑の歴史的な巨樹をご紹介するシリーズ。
第6回となる今回は、前回のケヤキに続いて、日本に自生する広葉樹であるカツラをご紹介します。
(写真:中の池の名木10選のカツラ)
【新宿御苑の歴史的巨樹をめぐる 過去の記事はこちら】
>>第1回「ユリノキ」 >>第2回「ハクモクレン」
>>第5回「ケヤキ」
カツラ(Cercidiphyllum japonicum)はカツラ科の落葉高木です。
北海道から九州の山地の渓流沿いによく自生していますが、涼しい場所を好むため、北に行くほどより多く分布しています。
また、しばしば公園木や街路樹としても植えられています。
木質が柔らかく加工がしやすいことから、古くから建築材や器具材、楽器材、彫刻用の木材に幅広く利用されてきました。
時代の変化とともに、身の回りの木の製品がだんだんと減ってきていますが、いまでも碁盤や将棋盤などは、おもな材料のひとつとしてカツラが使われています。
カツラは長寿の木としても知られており、日本最古のものとされる「糸井の大カツラ(樹齢2000年、幹回り20メートル/兵庫県)」を筆頭に、樹齢数百年から千年以上にもなる古木が、日本各地で天然記念物に指定されています。
新宿御苑には中の池や庭園外周などに約10本のカツラが生育しています。
とくに中の池の千駄ヶ谷門側にあるカツラは、樹高12メートル、幹周り550センチにもなる巨樹で、『新宿御苑 名木10選』のひとつにも選ばれています。
新宿御苑が皇室庭園となる明治時代よりもさらに昔、江戸時代の高遠藩主内藤家の下屋敷時代からあった木のひとつといわれています。
木の大きさとともに目をひくのが、木にぐるぐると巻かれた包帯。
こちらは前回ご紹介したケヤキと同じく、樹木治療を目的としたもので、老朽化して傷んだ巨樹の幹に土の中と同じような環境を作り、発根を促しています。
樹齢を重ねたカツラの特徴が、写真のように幹が途中から枝分かれしてゆくことです。
渓流沿いの涼しい場所を好むことから、カツラの木そのものが都内にはそう多くはありませんが、とくにこれほどの巨樹はめずらしいのではないでしょうか。
コロンと丸っこい葉っぱは、可愛らしいハート型。まばゆい太陽の光を透かしてみると、葉っぱ一枚一枚が宝石のようにきらきらと輝きます。
やさしいグリーンの色彩に包まれた木姿は、ふんわりとしたタッチで描かれた水彩画の主役のよう。さんさんと降りそそぐ太陽の光をやわらげ、ときおり風に揺られる枝葉が、地面にいくつもの木漏れ日を描きます。
黄葉した葉っぱは、甘いキャラメルのような香りがただよいますが、このことを「香り出る(かおりいづる)」と呼んだことが、カツラという名前の由来になったといわれています。
幹をよく見てみると、たくさんのセミの抜け殻が見つかりました。色が薄いのはツクツクボウシ、色が濃いのはアブラゼミの抜け殻でしょうか。カツラの木を頼り、この場所で羽化をして、旅立っていったのですね。
新宿御苑の歴史とともに歩んできた巨樹たち。もの言わぬ樹木たちですが、四季折々にこうした小さな生きものたちの寄る辺となって、いくつもの命をはぐくんできたのでしょうね。
時代を超えて受け継がれる歴史ある巨樹に会いに来てみませんか?
2016年8月25日 10:35