庭園を守るお仕事通信3月号【温室班】
本日は、温室班の3月の作業から「温室の外池周りの福羽イチゴの定植」をご紹介します。
新宿御苑は、日本で最初に国産の苺が生まれた場所ってご存知ですか?
明治5年(1872年)に開設された、国内外の農園芸の研究を行う国営の農業機関「内藤新宿試験場」が10年に閉鎖され、明治12年(1879)には新宿御苑の土地が皇室に献納されると「新宿植物御苑」に改称し、皇室の御料地・農園として運営されました。
新宿御苑の総責任者の福羽逸人は、明治33年(1900)に、オランダイチゴの栽培品種の実生を選抜して国産苺第一号の「福羽イチゴ」を作出しました。
当時は皇室献上用で「御苑イチゴ」や「御料イチゴ」とも呼ばれ、門外不出の果物でしたが、大正時代に促成栽培用の高級品種として全国に普及しました。長細い楕円形の大ぶりなイチゴで色・形・味・香りともに優秀な品種として、世界的にも名声を得るほどの有名なイチゴになりました。
おなじみの「とちおとめ」や「あまおう」など、いま日本で食べられている多くのイチゴが「福羽イチゴ」から品種改良されました。日本苺の祖といえる福羽イチゴは、現在も温室で大切に栽培しています。
イチゴは同じ株で3年くらいは実がみのりますが、花や実を作る為にエネルギーを使うため、株の力が弱ってきます。そのため、冬期にバックヤードの温室内で親株のランナーと呼ばれる走りづるにできた子株で苗を作り、更新していきます。
(親株)
(更新された子株。ランナー切りでは熱殺菌したハサミを使います。)
更新された元の親株は、温室の外池周辺に定植します。
腐葉土や肥料を混ぜ込んだ土に植えた後は、手をかけずに自然のままで暑さや乾燥などにどの程度耐えるのか、特定情報を得るという試みをしています。
石組みして段を作り、垂れ下がって実をつけるイチゴの特性に適した環境を作ります。
動かない植物の環境適応能力は人や動物よりも優れているといわれ、毎年温暖化がすすむ都市の夏の暑さに耐えうるか、日本苺の祖である福羽イチゴの潜在的な力をこれから見守って観察していきます。
廃棄されるはずの親株を利活用した小さな試み、フクバイチゴにエールを送り見守っていきましょう。