2015年(平成27年)8月28日、「第2回和食文化国民会議 普及・啓発部会」が皇居外苑楠公レストハウスにて開催、145名参加の下、以下のスケジュールで行われました。
(部会)14:00開会~16:00 閉会
和食文化国民会議会長 熊倉功夫氏
(開会のことば)
部会長 伏木享氏
(部会の活動説明 講演「おいしさを科学する」)
楠公レストハウス総料理長 安部憲昭
(「江戸の味をエコ・クッキングを通して再現し、食育・環境教育に貢献する取り組み」)
副部会長 増田徳兵衛
(「日本の酒、世界の酒」)
(懇親会)17:00~19:00 江戸エコ行楽重と日本酒による宴
和食文化国民会議(以下:和食会議)は、2013年(平成25年)12月「和食・日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを機に発足された、一般社団法人和食文化国民会議が主導し、和食文化の保護・継承を目的に活動している団体です。
組織は「調査・研究部会」「普及・啓発部会」「技・知恵部会」の3つの部会で構成され、各々のテーマ課題に沿った取組を実施しており、食品業界を中心とした企業、団体、教育機関や研究者を含む個人など300以上もの会員が参加しています。
国民公園協会皇居外苑が、食を通じた環境教育や食育等の取組実績を基に「普及・啓発部会」に所属していることから、今回、第2回目となる部会開催場所となりました。
(和食文化国民会議会長:熊倉功夫氏)
部会員の情報交換をメインとした今回の会議は、和食会議会長である熊倉功夫氏の開会の挨拶から始まりました。
「皆さんは、11月24日が一体何の日かわかりますか?」
熊倉会長によると、和食の味わいの中で最も重要なものが、「だし」。11月24日は「いいだし」で、「だしで味わう和食の日(以下:和食の日)」と提唱しているそうです。スーパーマーケットやレストラン、また小学校などで、日本が世界に誇る第五の味覚「うまみ」を和食の日を通してより多くの国民に広めたい、という思いから立ち上げられたのがこの企画。
スーパーマーケット等では和食の日にお惣菜コーナーに和の物を並べてもらうよう働きかけている他、就学児童層への提唱にも力を注いでおり、全国の多くの小学生に本物の「だし」を味わってもらうべく、和食の日の献立は子供達に向け「だし」が感じられるお吸い物や澄まし汁、炊き込みご飯等の提供を働きかけるなど、学校側との連携を進めています。「子供達が和食文化へ興味を持てるような機会を毎年継続的に作り、和食給食の和を広げていきたい」と話す熊倉会長。
(部会長:伏木享氏)
会長の挨拶に続き、伏木部会長は、部会の活動説明や「おいしさを科学する」という題目で講演されました。
「おいしさは食品の中にはありません。食べ物における文化、情報、報酬といった、人の判断によるものが大きく、和食文化の普及・維持する為には、食の志向性の改変、あるいは維持が必要です。食の志向性には多くの要素がからんでおり、変化を促すのは容易ではない。」と話す伏木氏。また、味の生理的背景についてこう指摘します。
「我々が先天的に好きなものが、うまみ。生まれたばかりの子供でもうまみにはにこっとします。スポーツの後にイオン飲料がおいしいと感じるのは、発汗、脱水によって体液の補充を体が求めているから。なので、スポーツ飲料は人々に「生理的」にうけた。吸い物の塩加減も同様です。」
また、現代人の捉える「おいしさ」については、「メーカーのネームバリューや製造年月日、賞味・消費期限など、買う側を安心させる情報や、その土地に合わせた細やかな地域性を考える事が重要」とのこと。
私達の生活における「食事」は、脂肪、砂糖、だし、といった分かりやすいおいしさでできています。伏木部会長は、「慣れ親しんだ味こそ人々に受け入れられる絶対条件。加えて、美味しさは快楽に関係している」と提言し、「和食普及の為に重要な『おいしさ』とは、生理的に受け入れられること、地域性を重要視すること、情報をしっかり提示すること等が挙げられ、和食の奥深さ、日本人の精神性、季節感、儀礼と共に食べるといった、食べ物と人間の精神活動から成り立ちに着目することが大切」とし、今後、和食普及に向け重点課題となる『おいしさ理論』を提唱されました。
(楠公レストハウス総料理長:安部憲昭)
続けて行われたのが、楠公レストハウスの安部総料理長の講演です。
安部総料理長は、地球環境を思いやりながら、「買い物」「調理」「片づけ」を行う「エコ・クッキング」を通して江戸の味を再現し、「食育・環境教育」に貢献するための活動など、楠公レストハウスにおける様々な活動について紹介しました。
「EDO→ECOクッキングプロジェクト」を始めてから、今年で6年目。「食を通しての社会貢献」とは何かを考え、一年の歳月をかけて、「江戸エコ行楽重三段」の提供が開始されました。江戸エコ行楽重は、江戸時代の料理書を参考に、無駄なく調理する江戸時代に習い「エコ・クッキング」を用いて作成した行楽重です。
「年間7万人の団体予約がある楠公レストハウスですが、そのうちの2万人は、修学旅行等で当施設を利用する学生の皆さん。そんな皆さんに、学べて、楽しめて、しかも思い出となる食事をしてもらいたいとの思いで、小・中学校の先生をはじめ、PTA、父母会に時間を掛けて説明しました。
従来、就学旅行等の食事は、低価格且つ子供が好きなメニューであることが常例でしたが、企業努力を重ねた結果、現在では、全体の65%の学校から採用されており、ここ数年、年々増加傾向にあります。また楠公レストハウスでは、伝統的な和食の形態である「一汁三菜」をランチメニューとして提供しており、ご飯、汁物、主菜、副菜、香物からなるバランスの良い食事は、近隣地域で働くOLの方やサラリーマンの皆さんにも好評です。」
(一汁三菜メニュー)
その他環境への取組として、エコアクション21への登録、持ち帰り箸「二重橋」、地産地消食材の使用、廃油、紙ごみ(ダンボール)のリサイクル、生ゴミ処理機エコポットの活用、ペットボトルキャップ回収による人道支援、専門医指導によるアレルギー食対応、外出弱者へのサポートとしてユニバーサルマナー検定の取得、グリーンツーリズムや環境・食育講演会の開催など、幅の広いコンテンツを紹介しました。
(楠公レストハウス: ユニバーサルマナー検定資格保有者)
(ザ・フォレスト北の丸: ユニバーサルマナー検定資格保有者)
安部総料理長は最後に、「料理人として伝統や文化、技術を守り、受け継ぎながら現代の人々に楽しんでもらえる要素を取り入れつつ、後世に残していきたい。皇居外苑という資産を生かし、財団法人だからこそできる食の提供、また持続可能で高付価値な商品やサービスの提供を追及し、協会の理念である奉仕の精神を事業の中に生かした取組を続けていきたい」と話し、講演を終了しました。
(普及・啓発部会会長:増田徳兵衛氏)
「第二回 普及・啓発部会」の最後を飾ったのは、日本酒造組合中央会委員長で普及・啓発部会会長でもある増田氏による「日本の酒・世界の酒」と題した講演です。増田氏は、京都伏見の酒蔵、月の桂の醸造元十四代目としても有名で、日本酒の海外進出においても一役を担っています。
増田氏によると、1990年から2014年までの日本人の一人当たりの酒類消費数量は、平成4年の年間消費量101.8リットルをピークに年々減少し、平成24年には82.2リットルと、3桁を切る状況に。そんな日本に対し、世界の地域区分別アルコール消費傾向は、南東アジア、アフリカ地域が増加傾向にあり、韓国・ソウル市では日本酒の飲用率はビール・ソジュ・マッコリ・ワインに次ぐものとなっていて、一般的に消費される酒類にはまだ及ばないものの、徐々に浸透し始めているそうです。
「日本で日本酒がはじめて作られたのは奈良時代。米麹を使用した酒が、奈良時代初期の「播磨国風土記」に記録として残されています。そして、京都の酒が誕生したのは飛鳥時代から奈良時代の間で、5世紀頃。朝鮮から渡来していた秦人(はたびと)は盆地に移住していて、現在の太秦の広隆寺一帯や、伏見稲荷神社一帯に拠点を築きました。養蚕・織物・陶業などの高度な技術を広め、それと同時に、酒造りの技法にも長じていた彼らは大陸伝来の新技法を取り入れ、良質な酒も造りはじめた事が、京都の酒誕生の由縁です。」と増田氏。
また、日本酒の繊細な味わいを作っているのは、それぞれの地域における「綺麗な水」と説明。日本人は世界で最も、味に対して繊細な味覚を持つ民族なのだそう。海外の人々にとっては、地域特性が顕著に出る「水」がカギとなる日本酒のおいしさを発見する事にはなかなか時間がかかるため、それらをいかに世界の人々に知ってもらい、分かってもらうかが、今後日本酒を世界へ発信する上での重要なのだそうです。
そして講演の中盤に行われたのが、皆さんお待ちかねの「きき酒タイム」。増田氏の父、13代目増田徳兵衛氏が日本で最初に発売された清酒「にごり酒」をはじめとし、「純米酒」、「柳酒」、「稼ぎ頭」と、自慢の日本酒が振る舞われました。創業1675年という、伏見で最も古い歴史のある酒蔵「月の桂」を前に、日本酒談義に花が咲いていました。
また、増田氏は、日本の伝統ある文化「日本酒」の魅力を日本全国、また世界へ発信するアンバサダーとして、20歳以上、28歳までの女性を対象に「ミス日本酒(Miss Sake)」を募集し、400名の応募があったことを説明。なんとオリンピックの年には、世界大会開催も計画中なのだとか!日本酒への情熱と共に、日本酒業界の今後の躍進に期待を於せた増田氏の講演でした。
普及・啓発部会員のコンテンツ紹介の後は、部会員の懇親会が引続き行われ、盛況のうちに無事終了しました。
国民公園協会皇居外苑では、和食会議の活動を通じ食業界とのネットワークを構築しつつ、新たなコンテンツ事業の可能性を模索するとともに、環境教育や食育を主軸にした普及・啓発の場を拡大していきたいと考えています。
2015年10月 6日 12:32