「巨樹」をテーマに、新宿御苑の歴史的な巨樹をご紹介するシリーズ。第9回となる今回は、アメリカキササゲをご紹介します。
ツツジ山には三つ又に分かれた枯木のような幹がそびえたっていますが、こちらの木がアメリカキササゲです
(写真:名木10選のアメリカキササゲ/ツツジ山)
まるでアート作品のような姿に驚かれた方も多いのではないでしょうか。
じつはこちらのアメリカキササゲは、はじめから個性的な姿だったわけではありません。
今回はアメリカキササゲにまつわる秘密を、御苑の歴史とともに振り返ってみましょう。
【新宿御苑の歴史的巨樹をめぐる 過去の記事はこちら】
>>第1回「ユリノキ」 >>第2回「ハクモクレン」
アメリカキササゲ(Catalpa bignonioides)はノウゼンカズラ科の落葉高木です。
漢字ではアメリカ木大角豆と表しますが、これはアメリカに自生し、木に豆のササゲ(大角豆)のような細長い果実をつけることから名づけられました。
名前の通り、北アメリカが原産地で、日本には明治時代に渡来しました。
(写真:葉っぱは大きなハート型です♪)
新宿御苑の記録では、明治7年(1874)にラクウショウやヒマラヤシーダーとともに種子を輸入して栽培したのがはじまりとされており、その当時、植えられた木といわれるのが、こちらのアメリカキササゲでした。
新宿御苑の歴史を物語る樹木のひとつということから、昭和34年(1959)には新宿御苑の一般公開10周年を記念して『新宿御苑 名木10選』のひとつにも選ばれました。
ところが、園内でもとくに見晴らしのよい高台で生育していたことが災いしたのでしょうか。
今から数十年前の落雷により、名木のアメリカササゲは幹が途中で折れてしまうほどの大きな被害を受けました。
残っている幹だけでも、樹高6メートル、幹回りはおよそ440センチにもなり、落雷被害を受ける前はかなりの巨樹だったことがうかがえます。
その後、名木のアメリカササゲには樹木治療がほどこされ、何とか一命をとりとめました。
真っ白な枯木のようになってしまった姿はそのままですが、しっかり木は生きており、毎年、春には新芽を出し、6月にはキリに似た花が咲きます。
また、木が生きている証拠はもうひとつあります。
それは折れた木と根っこでつながったひこばえです。名木のアメリカキササゲを中心として両隣に1本ずつ、ひこばえがすくすくと生長しています。
(写真:木の足もとをのぞきこむと、一部、地上に出た根っこの様子が観察できます)
小さいひこばえ(写真右)は樹高3メートル、幹回りおよそ90センチ。
背の高いひこばえ(写真左)は樹高7メートル、幹回りおよそ120センチにまで育ち、毎年どちらともたくさんの花が咲いています。
植物の生命力や力強さとともに、こうして命が未来へと結ばれつづけたからこそ、長い歴史を重ねるなかに、いまの新宿御苑の庭園がはぐくまれ、守られてきたのですね。
今日は台風の影響か、急に強い雨が降ったかと思えば、晴れ間がのぞく、なんとも落ち着かない空模様となりました。
お出かけに急な雨は困りものですが、植物たちにとっては待ちに待っためぐみの雨。たっぷりと水分をふくんだ芝生や木々はみずみずしく、普段よりもさらに緑が生き生きとしているのが感じられますね。
(写真:イギリス風景式庭園の中央休憩所付近)
新宿御苑の巨樹たちをめぐりながら、御苑の歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
2016年9月 7日 12:00