80年越しの想いは海を越えて

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 明日6月17日は『父の日』ですね。この記念日は1909年にアメリカ・ワシントン州に住むドッド夫人が、自分を男手ひとつで育ててくれた父に感謝の気持ちを込め、父親の誕生日にあわせて教会に礼拝を依頼したことが始まりといわれています。
 当時すでに母の日は存在していましたが、この出来事をきっかけとして1926年にナショナル ファーザーズ・デイ コミッティがニューヨークで組織され、それから50年近い時を経た1972年に6月第3日曜日が『父の日』として国民の祝日になりました。
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 さて、母の日に贈る花といえばカーネーションですが、父の日にも花があるのはご存知でしょうか?
 アメリカでは父の日に贈る花といえばバラですが、日本ではバラをはじめヒマワリやユリ、ランといった華やかな花のほか、父の日イエローリボンキャンペーンにちなんでイメージカラーの黄色を取り入れたアイテムが人気なのだそうです。
(写真上:フランス式整形庭園、写真下:黄色いバラのフリージア)
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 今日は「父の日」にちなみ、お父さんの木が重要な役割を果たした植物をご紹介したいと思います。
 
 植物にお父さんというと不思議に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。植物の多くは一つの株(個体)や一つの花の中におしべとめしべが存在するのが普通です。難しい言葉で雌雄同株(しゆうどうしゅ)、両性花(りょうせいか)と呼ばれます。
 
 植物種全体では約70%以上が両性花とされています。ユリやチューリップ、スイセンが属するユリ科、サクラやウメ、モモ、バラなどが属するバラ科、タンポポやヒマワリ、ダリアなどが属するキク科※など、私たちがよく知る植物の多くは「お父さんであり、お母さんでもある」という特徴を持っています。
 ※キク科のフキなど一部例外もあります。
 
 しかし、植物のなかには雌雄異株 (しゆういしゅ)といって、動物と同じように性別を持ち、オス(雄株)とメス(雌株)を区別できるものがいます。この特徴を持つ植物は、雄株と雌株が別の個体に分かれているので、雄株は花粉を作り種子を作らず、雌株は種子を作り花粉を作りません。
 植物は花が咲いて実がなるのが当たり前のことのように思われがちですが、父と母の両親が揃って始めて実を結ぶ植物もあります。
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 雌雄異株の植物らしいユニークなエピソードを持っているのがアオキ(青木)です。
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 アオキはアオキ科(旧ミズキ科)に属する日本原産の常緑低木です。寒さに強く日陰でも生育できることから季節を選ばない庭園樹として重宝されていますが、もうひとつのみどころが果実です。春に花が咲いたあと、秋から冬にかけて実が赤く熟します。
(写真:新宿門近く)
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 今から遡ることおよそ240年前の18世紀末。江戸時代の日本を訪問したイギリス人のジョン・グレツァーは、アオキの葉と赤い実の美しさに魅了され、赤い実のなった木を観賞用に持ち帰ったそうです。アオキはヨーロッパに伝えられ大きな反響を呼びましたが、雌株(めかぶ)のみだったため、翌年以降は実がなりませんでした。
(写真:実の付いたアオキ/1月下旬撮影)
 
 それから80年ほど後、1859年7月1日(安政6年6月2日)の横浜開港とともに、イギリス人のプラントハンターであるロバート・フォーチュンが来日します。彼の目的のひとつが、イギリスのアオキの雌株のためにパートナーを連れて帰ることでした。
 ほどなくしてフォーチュンは宿願だったアオキの雄株(おかぶ)を日本から持ち帰ることができ、ついにヨーロッパのアオキに赤い実ができるようになったそうです。
 常緑樹で赤い実のなるアオキが、当時のヨーロッパの人々を魅了してやまない植物だったことを物語るエピソードですね。
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(写真:アオキの雄株に咲いた花/3月下旬撮影)
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(写真:アオキの雌株に咲いた花/4月上旬撮影)
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 アオキは一年通して青々と葉が茂っていることから青木葉(アオキバ)とも呼ばれます。世界共通の学名も、和名の響きそのままに「Aucuba japonica(アウクバ・ヤポニカ=日本の青木葉)」で登録され、日本にとても馴染んだ植物のひとつです。
 新宿御苑では外周園路など各所でごく普通に見られる低木ですが、何気なく目にする木にも様々な物語が秘められていると思うと、自然や生物の世界の奥深さが感じられますね。
(写真:母と子の森近く)
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 ちなみに、雌雄異株の植物でもっとも身近なものといえばイチョウ(銀杏)ではないでしょうか。秋にギンナンがなるのが雌株で、ギンナンが出来ないのが雄株です。
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(写真:散策路のイチョウ雌株と落果したギンナン/10月中旬撮影)
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 イチョウは街路樹として日本で一番多く植えられている木ですが、ギンナンがならない雄株が植えられることがほとんどです。しかし、新宿御苑には雌株と雄株どちらも植栽しているため、毎年、秋になるとたくさんのギンナンがみのります。
 園路沿いには、ギンナンをつけない雄株を多く植えていますが、母と子の森や日本庭園外周林、散策路などには雌株を植えています。
(写真:大温室前のイチョウ雄株)
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(写真:イチョウの雄花/4月下旬撮影)
 
 イチョウといえば秋の鮮やかな黄葉がみどころで、日本各地に黄葉を楽しむ名所が知られていますね。都内では明治神宮絵画館前のイチョウ並木が有名ですが、この並木のイチョウは御苑のイチョウが親木になっています。
 明治42年(1908)、新宿御苑で採取した種子(ギンナン)を現在の明治神宮内の苗圃で育て、そのなかから樹形に優れた木を選抜し、大正12年(1923)に神宮外苑のイチョウ並木に植えられました。
 こうした歴史から、神宮外苑のイチョウ並木は新宿御苑のイチョウの木の子どもたちともいえますね。
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(写真:イチョウの雌花/4月下旬撮影)
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(写真:イチョウのギンナン生長中/5月中旬撮影)
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(写真:イチョウのギンナン生長中/8月下旬撮影)
 
 このほか、アカメガシワウメモドキカジノキハナノキ(※園内は雄株のみ)、カツラ(※園内は雌株のみ)なども雌雄異株の植物です。
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 春から初夏に花が咲き終わりましたが、これから秋にかけて、みのりの季節に向けた準備が進んでゆきますので、ぜひ植物たちの違いや変化にもご注目くださいね。
(写真:イギリス風景式庭園)

2018年6月16日 12:00

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