第10回 歴史的巨樹を巡る~サクラ"一葉(イチヨウ)"編~

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 「巨樹」をテーマに、新宿御苑の歴史的な樹木をご紹介するシリーズ。第10回となる今回は、新宿御苑の桜の代表品種・八重桜の一葉(イチヨウ)をご紹介します。
 
 これまで名木10選に選ばれた樹木を続けてご紹介してきましたが、八重桜のイチヨウが名木10選の最後のひとつになります。
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(写真:皇室庭園時代から受け継ぐイチヨウの古木/イギリス風景式庭園) 
 
 名木10選に選ばれた巨樹のイチヨウは、残念ながら平成22年の倒木により失われてしまいましたが、現在も皇室庭園時代から受け継ぐ古木を含めて、園内各所に約140本の木が生育しています。
 
【新宿御苑の歴史的巨樹をめぐる 過去の記事はこちら】
 
 
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(写真:イチヨウの花/4月撮影)
 
 イチヨウ(Cerasus Sato-zakura Group 'Ichiyo'〔※桜ウォッチング表記〕またはCerasus serrulata (Lindl.) G. DON ex Loud. 'Hisakura'〔※園内のサクラ看板表記〕)はバラ科サクラ属の落葉高木です。
 サトザクラ〔※おもにオオシマザクラを母体とするサクラの栽培品種グループ〕の栽培品種で、江戸時代末期(1800年代前期)から関東を中心に広まりました。
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 漢字で「一葉」と表す名前は、花の中央から葉化しためしべが1本伸びることに由来します。
 
 染井吉野をはじめとする「桜」といえば、何といっても日本を代表する花のひとつであり、日本のみならず世界各地でも広く親しまれる花としておなじみですね。
 さて、この桜の仲間には、ヤマザクラやオオシマザクラ、エドヒガンといった山地などに自生する野生種と、染井吉野(ソメイヨシノ)や枝垂桜(シダレザクラ)といった人の手で作出された栽培品種があります。
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 とはいえ、花が咲いていない時期は、葉っぱや樹形など、木を観察する手がかりが限られるため、木を見分けるのはなかなか難しいもの。
(写真:イチヨウの葉っぱ/ソメイヨシノと見分けられるでしょうか?)
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 園内のほとんどの桜の木には、写真のような樹名看板がついているので、ぜひ観察にご活用ください。
 
 新宿御苑には野生種、栽培品種あわせて約65種1100本の桜が生育しており、2月の寒桜から4月下旬の菊桜までの長い期間、特色ゆたかな桜を愛でられるのが大きな魅力となっています。
 なかでも、イチヨウをはじめとする八重桜はそのうち約20種500本にもなり、約420本の染井吉野よりも多く生育しています。
 毎年、染井吉野が花を散らす頃より咲きはじめ、4月上旬から下旬にかけて順番にみごろをむかえます。
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(写真:みごろのイチヨウ/4月撮影)
 
 こんなにも多くの桜がなぜ御苑にあるのでしょうか?
 その秘密は、新宿御苑が皇室庭園として完成した明治時代にまでさかのぼります。
 
 明治時代、国際親善のために始まった皇室行事のひとつが「観桜会」でした。
 明治14年(1881)に皇室主催の桜の鑑賞会「観桜御宴」として吹上御所で始まると、毎年4月に催されました。
 その後、明治16年(1879)から大正5年(1916)までは浜離宮、大正6年(1917)から昭和13年(1938)までは新宿御苑を会場に開催されました。
 
 その頃の新宿御苑は、宮内省の所管する「新宿植物御苑」でした。皇室の台所として西洋種を中心に御料野菜や果樹の栽培を進めていましたが、桜や菊など日本の代表的な花卉栽培にも力をそそぎました。
 その後、明治39年(1906)に日本初の本格的な近代西洋式庭園として皇室庭園「新宿御苑」が誕生。浜離宮で行われていた観桜会が、大正6年(1918)から新宿御苑で催されることになりました。
 当時、新宿御苑には約70種もの桜が植栽されていましたが、その後さらに全国へ桜の苗木提供を依頼し、大正8年には約160種1560本の桜を植栽したといわれています。
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(写真:昭和25年頃のイギリス風景式庭園)
 
 新宿御苑の総指揮者であった福羽逸人は、著書『回顧録』において、新宿御苑は桜の本数が多く、種類数も他に例のない、まさに「日本における名花の御苑である」と記しています。また、当時から八重桜のイチヨウとフゲンゾウを「観桜会の時に賞玩すべき品種」としています。
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(写真:現在のイギリス風景式庭園)
 
 フランス式整形庭園の奥にある正門(※正門から入退園はできません)には、イチヨウの花がデザインされています。
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(写真:フランス式整形庭園)
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(写真:正門)
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(写真:正門にデザインされたイチヨウ
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(写真:正門にデザインされたイチヨウ
 
 庭園誕生から110周年をむかえた本年においても、八重桜のイチヨウを代表品種とし、国内外の幅広い世代のみなさまに親しまれるお花見の名所・新宿御苑。
 その桜の歴史はいまから100年以上も昔の明治の頃より受け継がれたものであるといえますね。
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(写真:イチヨウの古木)
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(写真:幹が苔むしたイチヨウの古木)
 
 時代を超えて、新宿御苑の歴史とともに歩んできた樹木に会いに来てみませんか?

2016年9月15日 13:00

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